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2017.04.29

AMERICAN BOOKS カリフォルニアを巡る物語
【Vol.29】『悪い夢さえ見なければ』×ロングビーチ

LAから南に約30㎞。高層ビルが立ち並ぶ一方で、ビーチタウンの顔も持つ風光明媚な街ロングビーチ市。この街で活躍する警察官を主人公に、難解な捜査に奮闘するドラマを描いたのが本書だ。家族を亡くし苦しむダニーと格闘技に秀でた相棒のジェン。ある日、彼らが目にしたのは、全身を切り刻まれ、…

LAから南に約30㎞。高層ビルが立ち並ぶ一方で、ビーチタウンの顔も持つ風光明媚な街ロングビーチ市。この街で活躍する警察官を主人公に、難解な捜査に奮闘するドラマを描いたのが本書だ。家族を亡くし苦しむダニーと格闘技に秀でた相棒のジェン。ある日、彼らが目にしたのは、全身を切り刻まれ、左手首のない遺体だった。そこから事件は急展開を見せる。主人公の心の動きも読みごたえがあり、エンタメ感満載の1冊だ!


美しい西海岸のビーチタウンを舞台に支え合う男女の刑事コンビを描く警察小説!
LAのダウンタウンからブルーラインの地下鉄に乗って南下すると、ワッツやコンプトンといった貧困地区を通過してロングビーチ市に至る。内陸の貧困地区とは打って変わって、ここは古くから栄えたリゾート。大企業が軒を連ねる経済都市でもあり、海岸沿いには豪邸が立ち並ぶ。ここロングビーチ市の殺人課の警察官たちを主人公にした推理小説が本書だ。高校の女性教員、ベスことエリザベス・ウィリアムズが校内で惨殺される。現場に駆けつけたのが殺人課刑事のダニー・ベケットと、相棒の女性刑事ジェン・タナカ。ダニーは1年半前に妻を事故で亡くし、心に傷を負っている。ジェンはテコンドーの黒帯で、武道の指導を通じて貧困地区の子供たちを支援している。この2人が、さらに個性的な刑事たちとともに、ベス・ウィリアムズ殺人事件に取り組むことになる。

LA大都市圏の階級や人種の多様性がうまく生かされた小説だ。ジェンが面倒を見る子供の中にはベトナム系のルディ・グエンという少年がいて、その兄はリトル・サイゴンのギャングのパシリだという。リトル・サイゴンはロングビーチ市から東に20㎞ほど行った、ウェストミンスターにある全米最大のベトナム人コミュニティ。一方、西に20㎞ほど行くとパロス・ヴェルデス半島に入り、指折りの高級住宅地がある。最初に容疑者として浮かび上がった会社役員、ダリル・ワクスラーは、太平洋を望む絶景の地に豪邸を構えている。ダニーとジェンが捜査のためにクルマで走るシーンからも、この街周辺の多様性がうかがえる。

「海岸沿いのパイン・アヴェニューは、シックな新しいレストランや小洒落たナイトスポットが毎月のようにオープンする、ロングビーチ界隈でも最先端のプレイスポットだ。(中略)そこを数マイルほど北に走り、パシフィックコースト・ハイウェイを過ぎると、冷え冷えとした市街地を迂回する海岸線沿いのルートに出て、ロサンゼルスでも無法地帯で知られるサウスセントラル地域南部に入り込んでいた」(P156)

ダリルが容疑者として浮かび上がったのは、最近までベスとつき合っていたのに、ベスから一方的に別れを告げられたためである。だが、捜査が進むうちに、ベスは男性に対して極度の不信感を抱いており、その原因は父親にあることがわかる。こうしてベスの父親が容疑者として急浮上。彼の自殺により、彼の犯罪として片づけられそうになるが、事件はそう簡単に解決しない。捜査の進展に目が離せないだけでなく、妻の死の場面を繰り返し夢に見てしまうダニーと、彼をいたわりつつ支えるジェンの、微妙な心の触れ合いにも引きこまれてしまうはずだ。

LAのダウンタウンからブルーラインの地下鉄に乗って南下すると、ワッツやコンプトンといった貧困地区を通過してロングビーチ市に至る。内陸の貧困地区とは打って変わって、ここは古くから栄えたリゾート。大企業が軒を連ねる経済都市でもあり、海岸沿いには豪邸が立ち並ぶ。ここロングビーチ市の殺人課の警察官たちを主人公にした推理小説が本書だ。高校の女性教員、ベスことエリザベス・ウィリアムズが校内で惨殺される。現場に駆けつけたのが殺人課刑事のダニー・ベケットと、相棒の女性刑事ジェン・タナカ。ダニーは1年半前に妻を事故で亡くし、心に傷を負っている。ジェンはテコンドーの黒帯で、武道の指導を通じて貧困地区の子供たちを支援している。この2人が、さらに個性的な刑事たちとともに、ベス・ウィリアムズ殺人事件に取り組むことになる。

LA大都市圏の階級や人種の多様性がうまく生かされた小説だ。ジェンが面倒を見る子供の中にはベトナム系のルディ・グエンという少年がいて、その兄はリトル・サイゴンのギャングのパシリだという。リトル・サイゴンはロングビーチ市から東に20㎞ほど行った、ウェストミンスターにある全米最大のベトナム人コミュニティ。一方、西に20㎞ほど行くとパロス・ヴェルデス半島に入り、指折りの高級住宅地がある。最初に容疑者として浮かび上がった会社役員、ダリル・ワクスラーは、太平洋を望む絶景の地に豪邸を構えている。ダニーとジェンが捜査のためにクルマで走るシーンからも、この街周辺の多様性がうかがえる。

「海岸沿いのパイン・アヴェニューは、シックな新しいレストランや小洒落たナイトスポットが毎月のようにオープンする、ロングビーチ界隈でも最先端のプレイスポットだ。(中略)そこを数マイルほど北に走り、パシフィックコースト・ハイウェイを過ぎると、冷え冷えとした市街地を迂回する海岸線沿いのルートに出て、ロサンゼルスでも無法地帯で知られるサウスセントラル地域南部に入り込んでいた」(P156)

ダリルが容疑者として浮かび上がったのは、最近までベスとつき合っていたのに、ベスから一方的に別れを告げられたためである。だが、捜査が進むうちに、ベスは男性に対して極度の不信感を抱いており、その原因は父親にあることがわかる。こうしてベスの父親が容疑者として急浮上。彼の自殺により、彼の犯罪として片づけられそうになるが、事件はそう簡単に解決しない。捜査の進展に目が離せないだけでなく、妻の死の場面を繰り返し夢に見てしまうダニーと、彼をいたわりつつ支えるジェンの、微妙な心の触れ合いにも引きこまれてしまうはずだ。

“訳者あとがき”によれば、作者はロングビーチ市警殺人課の刑事たちを入れ代わり主人公にして、シリーズ化したいと考えているとのこと。次は武道の達人ジェンが犯人を捕まえる姿を見たい!


●『悪い夢さえ見なければ』
タイラー・ディルツ 著 安達眞弓 訳 
創元推理文庫 1040円


雑誌『Safari』6月号 P287掲載

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